「名ばかり管理職」なら残業代が取り戻せる! その方法を弁護士が解説
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2018年11月、有名大手スポーツクラブの元支店長が権限や裁量のない名ばかり管理職だったとして、東京地裁は企業側に対し未払い残業代や付加金の支払いを命じる判決を下しました。企業の中でいわゆる「管理職」と呼ばれる立場になると、「残業代が支払われないのが当たり前」と思われていますが、実際は残業代が請求できるケースが少なくありません。
今回は、どういった場合に法律上の「管理職」にあたるのか、また名ばかり管理職がどのように残業代を請求すればよいのかについて解説します。
1、法律上の「管理監督者」と一般的な「管理職」の違いとは
労働基準法上、「管理監督者」にあたる者には残業代を支払わなくてもよいと規定されていますが、法律でいう「管理監督者」は一般的に言われる「管理職」と少し解釈が異なります。ここでは、「管理監督者」と「管理職」の違いについて解説します。
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(1)経営者に近い権限や責任がある(要素①)
法律上の「管理監督者」は、経営者と一体となって、経営者に近い権限や責任を負うことになっています。たとえば、経営方針や採用活動、労働条件の決定に関与している、部下の労務管理や人事考課を行っているなどの場合は、「管理監督者」にあたる可能性があります。
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(2)労働時間を管理されていない(要素②)
また、労働時間が管理されていないことも管理監督者にあたるかどうかの判断基準になります。遅刻や早退、欠勤をしても給与からその時間分の賃金を控除されていない、遅刻や欠勤などの回数が多くても懲戒処分の対象となっていない等の場合は、管理監督者の立場にあると言えます。管理されているか否かについて、タイムカードの有無は一つの目安にはなるでしょう。
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(3)一般の労働者と比べて高額な報酬をもらっている(要素③)
また、管理監督者と呼ばれる立場では一般の労働者と比べて高額な報酬をもらっていることも大きな特徴です。ここでいう「一般の労働者と比べて高額な報酬」とは、はっきりした基準はありませんが、管理職手当などの数万円程度の差では足りず、月々数十万円程度の差があることが目安となるでしょう。
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(4)名ばかり管理職にされやすい役職
名ばかり管理職にされやすい肩書としては、以下のようなものがあげられます。
- 係長・課長・部長・取締役など
- 所長・支店長・副支店長・店長代理など
- エリアマネージャー・マネージャー・リーダーなど
これらの肩書を持つ方は、法律上の管理監督者にあたるように見えます。しかし、本当に管理監督者にあたるかどうかは勤務や労務管理の実態に即して判断されることになるため、肩書だけで判断することはできません。
2、具体的なケースと、実務のポイント
では、実際にある例をあげながら、裁判でどういう判断がされるか見ていきましょう。
①経営者に近い権限や責任がある、②労働時間を管理されていない、③一般の労働者と比べて高額な報酬をもらっている、という点に注目してください。
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(1)名ばかり管理職の例
トラック運送業で、①業務部門の長でも、役職が無く、②タイムカードで管理されており、③報酬も労働時間の割に他の従業員と比較して多額でない場合、運行以外に運行管理のマネージャー的業務があっても、管理監督者でなく、残業代が支払いわれる(①~③を欠く)。
外回りの営業で、①その部門の長であり、その部門の人事に影響力があっても、実際の人事権がなく、②開始と終わりに避けられない業務があり、かつ、会社がタイムカードで管理しようとしており、③部門内の他の労働者の1.5倍程度の報酬があっても、賃金自体がそれほど高額ではない場合、残業代が支払われる事例もあります(①を欠く)。 -
(2)管理監督者とされた事例
①会社全体や複数支店を統括する権限を有している場合(経理、人事、庶務など複数部門の総務部長、6つの店舗を統括するエリアディレクター)、経営幹部で経営上重要な権限を有している場合(経営会議のメンバーで人事・労務などの権限があった)などは、②時間管理がされておらず、③金銭的にも高待遇であれば、管理監督者とされます。
逆に、社内でナンバー2だとか、エリアマネージャーだとかの相当重要な権限があっても、②タイムカードで管理され、遅刻などの場合に減給されたり、③賃金が他の労働者と変わらない待遇であれば、管理監督者ではなくなります。 -
(3)実務のポイント
このように、管理監督者とされる例は、社内で相当重要な地位にある場合に限られます。 そして、実際は、①~③は、ひとつでも欠ければ管理監督者にあたらないという判断がなされがちです。そのため、裁判では管理監督者にあたるのはごくまれです。
よって、実務では、会社が管理監督者と主張するのも躊躇するし、裁判所が認定するのも困難な状況です。そこで、労働者としては、社内で、「マネージャー」とか、「役員」と呼ばれていても、名前に惑わされず、堂々と残業代を請求すべきです。
3、残業代の計算方法
残業代を請求する際には、具体的な残業代を算出します。
なお、変形労働時間制などを採用している会社では一定期間の平均で週40時間を超えないと残業代が発生しないなど、別途考慮が必要になります。
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(1)基礎時給を計算する
まずは給与明細をみて、残業代を計算するための基礎となる時給を計算します。時給制で働いている場合は、時給をそのまま当てはめることができますが、月給制で働いている場合は、基本給として支払われている金額をその月の所定労働時間で割って算出します。
この基本給には、家族手当や通勤手当などは含みません。「役職手当」は、手当の趣旨によりますが、みなし残業代の趣旨でない限り、基本給に含めて構いません。(例)基本給が20万円、1日あたり8時間で月20日働いている場合
所定労働時間:8(時間)×20(日)= 160(時間)
基礎時給:200000(円)÷160(時間)= 1250(円) -
(2)計算方法は残業した日時により異なる
残業には、法定内残業と法定外残業があります。残業時間が労働基準法上の法定労働時間(1日8時間以内)に収まっているときは、法定内残業として、基礎時給がそのまま残業代になります。一方、1日8時間以上働いた(時間外労働を行った)場合は、基礎時給の1.25倍の割増賃金を支払われます。
また、深夜残業(22時~翌朝5時)をした場合は1.5倍、法定休日(法律で定められている休日)に働いた場合は1.35倍、法定休日に深夜残業をした場合は1.6倍の割増賃金が支払われます。 -
(3)管理監督者でも深夜残業の割増賃金は請求できる
労働基準法上の管理監督者に該当する者には、残業代は支払われません。しかし、時間外手当と深夜手当は、制度趣旨が異なりますので、管理監督者でも22時~翌朝5時までの間に深夜残業を行った場合は、「深夜手当」は受けられます。
4、名ばかり管理職が残業代を請求する方法
ある管理職の方が「名ばかり管理職」であるとして会社側に未払い残業代を請求する場合は、証拠を集め、残業時間や残業代を計算した上で、会社側と交渉していくことになります。交渉の際には、労働基準監督署にアドバイスを求めるのも良い方法ではありますが、根本的な解決を求めるには弁護士に相談したほうが良いでしょう。
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(1)証拠を集める
まずは証拠集めを行います。証拠は、残業をした事実を示すものと、残業時間を示すものが必要です。タイムカードやIDカードの入退室記録があればそれだけで有力な証拠となります。しかし、会社で労務管理がきちんとなされていないなどの理由から、勤怠記録がない場合は、パソコンのログイン・ログオフの記録や出退勤時間を記したメモ・手帳などがあれば良いでしょう。また、同僚や会社に出入りしている業者の「○○さんはいつも○時まで会社でパソコンに向かっている」などの証言も有効です。
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(2)残業時間を把握して残業代を計算する
証拠の準備ができたら、日々の残業時間を合計して、残業時間を算出します。次に、時間給×1.25×残業時間で請求すべき残業代を計算します。ただし、変形労働時間制をとっている会社では、別途考慮が必要となります。
次に、就業規則の賃金規程に、「みなし残業代」にあたる手当がないか、あるとして既払い残業代はいくらかを検討します。 -
(3)会社側と交渉する
算出した残業代をもとに、会社側に内容証明郵便などで時効を止めた上で交渉に臨みます。会社側は一人の管理職に残業代を支払うと、他の管理職にも残業代を支払わなければならなくなったり、労働保険料を再度計算しなおして申告する「再確定申告」も行わなければならなくなったりします。そのため、交渉に臨んでも支払いを拒否されたり、そもそも相手にしてもらえなかったりする可能性があります。交渉するなら、弁護士に依頼をしたうえで臨む方がよいでしょう。
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(4)労働審判をする
交渉が難航する場合やそもそも交渉にならない場合は、労働審判を利用します。労働審判は、平均80日程度で終結するので訴訟よりも使い勝手がよく、現在利用が進んでいます。労働審判とは、裁判所で裁判官と有識者から成る労働審判委員会の仲介のもとで、会社側と協議を行い、解決策を模索する方法です。協議が調ったら調停が成立となりますが、労働審判が下ることもあります。当事者のどちらか一方が審判の結果に納得できない場合は、自動的に訴訟に移行します。
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(5)裁判を起こす
交渉・労働審判で妥結しない場合は、最終的に裁判で争うことになります。裁判になると、最低でも半年~1年程度、控訴審や上告審までいくと数年もかかることがありますので、ある程度長期戦になることを覚悟しておいた方が良いでしょう。ただ、裁判になっても多くのケースで和解が成立します。
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(6)残業代請求ができる時効に注意
残業代が請求できるのは、本来残業代が支払われるはずだった給料日の翌日から起算して2年以内です(毎月25日払いですと、2年後の同月26日午前零時を過ぎると時効完成になります)。2年を過ぎると、どんなに未払い残業代が高額だったとしても1円も受け取れなくなります。特に退職してしまうと請求するタイミングが遅れるほど請求できる金額が少なくなってしまうため、時効を止めるためにすみやかに弁護士などに相談したほうがよいでしょう。なお、現在、改正民法にあわせて時効期間を延長させる改正が進んでいます。
5、まとめ
管理職になったからと言って、ただちに残業代を請求できなくなるわけではありません。むしろ、管理監督者に該当することのほうが少ないと言えます。管理職になって残業代が支払われなくなった方のために、ベリーベスト法律事務所 静岡オフィスが未払い残業代に関するご相談を承っております。平日の昼間に法律相談にお越しいただくことが難しければ、平日の夜間や土日でも構いません。お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています