【前編】年俸制は残業代が出ない? 残業代を請求できるケース・できないケース

2019年04月25日
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【前編】年俸制は残業代が出ない? 残業代を請求できるケース・できないケース

かつてはプロ野球選手など、一部の職業にだけ導入されていた年俸制。ですが近年では外資系企業やエンジニアなど、様々な企業・職種に広がりつつあります。

とはいえまだまだ仕組みについてはきちんと理解されておらず、「年俸制では残業代はでない」と思い込んでいる方も多いでしょう。

静岡市内でも導入している企業はあるため、転職などの際には応募の前に制度をきちんと知っておくことが大事です。

そこで今回は年俸制と残業代との関係について、静岡オフィスの弁護士が詳しくご説明します。

1、年俸制は残業代が支払われない?

年俸制でよくある勘違いが「年俸制=残業代ゼロ」です。年俸制であっても、残業代は支給されます。それを理解するために、まずは年俸制や残業代の仕組みについて理解しておきましょう。

  1. (1)年俸制とは

    年俸制とは、給与を1年単位で決めて支給する仕組みです。
    年俸制を取ること自体は労働基準法上違法ではないですが、逆に年俸制をとったからといって労働基準法等の適用を免れるわけではありません。

    1年間の給与額が決まっているからといって、一括で支払われるわけではありません。
    労働基準法第24条は「賃金は毎月1回以上、一定の期日を決めて支払わなければならない」と定めています。そのため年俸は分割され、毎月支給されます。

    なおボーナスの扱いは会社によって異なり、年俸の中に含まれていることもあれば、別に支給されることもあります。

    年俸制には毎月もらえる給与額がすでに決まっているという点で安定性はありますが、会社の業績アップに貢献したからといってすぐに反映されるわけではないという、マイナス面もあります。

  2. (2)残業・残業代とは

    残業とは、会社の就業規則などに定められている「所定労働時間」を超えた労働、または労働基準法で定められている「法定労働時間」を超えた労働(時間外労働)です。

    労基法第32条では、労働時間を「1日8時間まで、週40時間まで」と定めています。
    労働者がこの法定労働時間を超えて残業(時間外労働)をした場合には、会社は「25%以上」の割増賃金を支払わなければなりません。これがいわゆる残業代です。深夜(午後10時から翌午前5時)に労働した場合も、同様に「25%以上」の割増賃金を支払わなければなりません。
    深夜に時間外労働をした場合には、割増率が足し算され、「50%以上」となります。

  3. (3)「年俸制=残業代ゼロ」ではない

    よく「年俸制では残業代は出ない」という説明が聞かれますが、必ずしもそうというわけではありません。

    一口に年俸制といっても残業代の扱いには次の2通りがあり、会社によってどちらを採用しているかが異なります。

    • 年俸に残業代が含まれている(固定残業代制)
    • 年俸に残業代が含まれていない


    年俸に残業代が含まれているケースでも、残業代は発生する可能性があります。いずれのケースでも「年俸制=残業代ゼロ」ではないのです。

    そのため会社から「年俸制だから残業代はない」と説明を受けたとしても、それを鵜呑みにしてはいけません。

2、年俸制で残業代が支払われるケース、支払われないケース

「自分のケースでは残業代が発生するのかどうかわからない」という方も多いでしょう。ではどのようなケースで残業代は支払われるのか、また支払われないのか、具体的にみていきましょう。

  1. (1)残業代が支払われるケース

    年俸に当初から残業代が含まれていない場合、働いた時間に応じて残業代が発生します。

    つまり月給制と同じように、時間外労働には割増賃金が支払われるということです。深夜や休日の労働についても同様に割増賃金となります。

    給与に残業代が含まれているかどうかがわからない場合は、就業規則や雇用契約書を確認したり、会社に直接聞いたりしてみましょう。

  2. (2)残業代が支払われないケース

    年俸制かつ、みなし労働時間制の場合には、基本的には残業代は発生しません。

    みなし労働時間制とは実際働いた時間に関わらず、一定時間働いたものとみなして給与を支給する制度です。
    実際の勤務時間を会社が把握しにくい職種で採用されています。裁量労働制もみなし労働制の一種です。
    しかし、通信機器の発達した今日、みなし労働時間制を適用できる場面、つまり「実際の勤務時間を会社が把握しにくい」場面は限られており、適用するために必要な手続は労働基準法で定められています。
    ちゃんとしている会社もありますが、適用できる場面ではない、又は必要な手続を踏んでいないのに「うちはみなし労働時間制だから残業代は払わない」と社員に説明している会社もあります。
    そのような会社に対しては、労働審判や訴訟など、法的手続をとれば残業代を払ってもらえる場合もあります。

    また、労基法で定められている「管理・監督者」に該当する場合にも、残業代の支給はありません。
    管理監督者には労基法の労働時間や休日、休憩に関する規定が適用されないため、時間外労働の割増賃金も発生しないのです。ただし、深夜労働に関する規定については労働基準法の適用があります。

    特に、年俸制を取られている労働者は、職位が高い人が多いので、会社から管理・監督者に該当すると扱われている可能性は、通常の月給制の方に比べれば高いでしょう。しかし、労働審判や訴訟の場面では、労基法上の管理・監督者に該当すると判断される例は、多いとはいえません。

  3. (3)固定残業代制はケースバイケース

    年俸制と固定残業代制を併用しているケースは少なくありません。

    固定残業代制とは、会社が一定時間の残業があると想定し、その分の残業代を給与に含めて支給する仕組みです。
    通常は就業規則に「固定残業手当は、○時間○万円分」などと明確に記載されています。 残業がこの「○時間」という時間内に収まる場合には、追加での残業代は支給されません。
    しかし、もし、就業規則や労働契約書などで、残業代に充てられる部分が明確に区分されていない場合、会社側が「固定残業手当」として扱っている部分は、労働審判や訴訟などの場面では「残業代」として扱われない可能性が高くなります。

    また、会社によっては、労働契約や就業規則で「☓☓手当は時間外手当(残業代)に充当する」などと定めている場合もあります(業務手当・営業手当など)。労働審判や訴訟の場面になれば、その「☓☓手当」を残業代に充当していいのかを争うことがあり、場合によってはそういった充当を認めないと判断されることもまれではありません。

    残業がこの「○時間」という時間をオーバーした場合には、その分については残業代が発生します。年俸に一定額の残業代が含まれているからといって、追加の残業代は出ないというわけではないのです。

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