婚外子でも養育費を請求することはできる? 知っておきたい法律知識

2019年08月20日
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婚外子でも養育費を請求することはできる? 知っておきたい法律知識

平成2年静岡家庭裁判所において、「非嫡出子(=婚外子)の相続分が、嫡出子より少なく規定されていることは合憲である」という判決が下されています。現在は平成25年12月5日の民法改正により、婚外子も、嫡出子と同等の相続を受けることができますが、それまでは婚外子は、相続上で不利な立場に立たされ続けていたのです。

現在は、婚外子も嫡出子と同等の相続を受けることができますし、さまざまな権利も認められています。しかし、それらの権利は行動を起こさなければ手にすることができない可能性があります。特に、養育費は、嫡出子であっても離婚した元夫からスムーズに受け取ることが難しいといわれているものです。そこで、今回は婚外子が養育費を受け取るための方法やそのために必要な知識を解説していきたいと思います。

1、婚外子とは

婚外子とは、法律上の婚姻関係にない男女から生まれた子どものことです。一方、結婚した夫婦から生まれた子どもを「嫡出子」といいます。婚外子のことを「非嫡出子」と呼ぶこともありますが、「嫡出」という言葉に「正統」といった意味もあるため、「非嫡出子」という言い方は避けられる傾向にあります。

嫡出子と婚外子は、冒頭でお話ししたように昔は相続面で大きな差をつけられており、婚外子は差別的な待遇を受けてきました。しかし、時代の移り変わりとともに、婚外子も嫡出子と等しく遺産が分配できるように、民法が改正されています。

また、ライフスタイルの変化により結婚を選択せずに子どもを産み育てる女性が増えたことから、所得税や住民税で受けることができる寡婦控除を、婚外子を出産した女性にも適用しようという動きも見られます。しかし、厚生労働省による要望にとどまっている状態であるため、実際に法整備されるのはまだ先になりそうです。いずれにせよ、婚外子とその母親を取り巻く環境が、徐々に改善されつつある証しであるともいえます。

2、婚外子でも養育費を受け取ること認められているのか?

婚外子でも、父親が任意に養育費の支払いに応じるのであれば、養育費の受け取りは可能です。ただし、あくまでも任意なので、父親が拒否してしまえば受け取りは難しくなります。

それを防ぐためには、まずは「認知」が必要です。母親は、出産したという揺るぎない事実があるので、子どもとの親子関係に疑いが生じることはまれです。しかし、結婚していない男性との間に生まれた子どもは、「認知」をすることで初めて父親との法律的な親子関係が発生するのです。

認知によって、法的に親子だと認められれば、婚外子であっても養育費を受け取る正当な権利を持つことができます。養育費は法律でも優遇されている権利で、借金のように自己破産で免責されることはありません。また、支払いが滞れば差押えなどの強制執行手続も可能です。差押えの中でも給与を差し押さえる場合、貸金返還請求権などの通常の債権に基づいて差し押さえるときは4分の1までしか差し押さえることはできませんが、養育費支払請求権に基づいて差し押さえる場合は、それよりも高い割合(2分の1)で差し押さえることが可能です。

ただし、認知されていない婚外子の養育費は法律上は養育費と扱われず、強制執行などもできませんので、養育費を確実に受け取りたいのであれば、認知をしてもらうことが必要不可欠です。

3、婚外子を認知してもらうことで生じる3つのメリット

婚外子を認知してもらうことで、将来的に子どもに大きなメリットがあります。

まず、認知してもらうことで受けられるメリットのひとつめが「相続人になれること」です。先ほど、婚外子でも嫡出子と同等の遺産相続を受けることができるようになったと解説しましたが、実は今でも「認知」してもらえなければ相続人になることはできません。認知してもらえていなければ、法律上の親子関係が発生しているとは見てもらえないため、相続する権利が発生しないのです。逆に、認知してもらえれば、法律上の親子関係があることになりますので、相続権が発生し、相続人になれます。

2つめのメリットは、養育費が請求できるようになる点です。養育費が生じる根拠は親子間での扶養義務に基づきます。さきほども申し上げたように、認知がなければ法律上の親子関係があると見てもらえません。任意で養育費を支払ってくれるよう求めることはできますが、義務として成人するまで養育費を支払ってもらうためには認知が必須と考えたほうがよいでしょう。

3つめのメリットは、戸籍への記載と父親の氏を名乗ることができる点です。認知後、子どもは母親の戸籍に入ることになります。しかし、認知後に父親が転籍などで新しく戸籍を作らない限り、認知したことは父親の戸籍に記載されます。また、家庭裁判所の許可を受ければ子どもは父親の氏を名乗ることも可能です。

このように、婚外子を認知してもらうことは、子どもにとってはメリットが多いので、子どもの権利を確実にするために、早い段階で認知してもらいましょう。

4、婚外子を認知するための3つの方法

では、次は実際に認知するための方法を解説します。認知の方法は以下の3つです。

  1. (1)任意認知

    任意認知とは、父親が自分の意思で行う認知です。

    認知届に必要な書類は、父親の署名・押印、父親の本人確認書類です。子どもが成人している場合、子どもが認知することに承諾する旨が明記された「承諾書」も必要になります。本籍地以外でも手続が可能ですが、その場合は父または子どもの戸籍謄本も用意してください。

    任意認知は、書類を提出するだけなので比較的簡単に手続が可能です。

  2. (2)強制認知

    父親が任意での認知に応じない場合は、家庭裁判所で調停や審判、訴訟などの手続を行い、認知を求めなければなりません。審判や判決で認知が認められたら、認知届書を市区町村役場に提出します。

    ただし、いきなり訴訟を起こしたり審判を受けたりするわけではなく、最初は「調停」で話し合いを行います。調停員がお互いの主張を話し、解決できるように間に入ってくれます。それでも決着できなければ訴訟などの手続に移行します。

  3. (3)遺言認知

    遺言認知は、遺言に認知する旨を明記しておく認知方法です。父親が死亡したと同時に効力が発生します。

    これから婚外子を産み育てる場合は、任意認知か強制認知で法律的な親子関係を発生させておいたほうがよいでしょう。

5、妊娠発覚後、出産前に認知ができる「胎児認知」とは

胎児認知とは、妊娠中に自分の子どもであると父親に認知させるものです。認知届を市区町村役場に提出すれば手続は完了します。胎児認知は、産婦人科で「母子手帳をもらってきてください」といわれる段階までおなかの子どもが育てば、認知届を提出できるケースが多いようです。

胎児認知の必要な書類は通常の任意認知と同じく「認知届」です。父親だけでなく母親の署名捺印も必要になります。胎児認知をするメリットは、出生届に父親の氏名を記載することができる点です。通常、婚外子は、父親欄は空欄で出生届を提出しなければなりませんが、胎児認知をしておけば、出生届に両親の名前がそろうことになります。また、胎児のうちに認知しておくと、出産前に父親が死亡しても父親の財産を相続することができます。

以上のように、胎児認知にはメリットが多いので、父親が認知に前向きであれば、胎児のうちに認知しておくことをおすすめします。

6、婚外子の養育費の相場と計算方法

婚外子も嫡出子も養育費の計算方法は同じです。婚外子だからという理由のみで養育費が低くなることはありません。

日本では、養育費を計算するために「養育費算定表」という表を用いています。こちらは家庭裁判所の公式ホームページにも掲載されている公式な資料で、裁判もこの基準を参考に行われます。子どもの人数と年齢、父親と母親の年収によってそれぞれ適切な金額がわかるようになっています。

たとえば、父親がサラリーマンで年収が500万円、母親がアルバイトで年収が100万円、子どもがひとりというケースで計算してみましょう。

  • 子どもが0歳から14歳まで……養育費4万円から6万円
  • 子どもが15歳から19歳まで……養育費6万円から8万円


原則としては、父親の年収が高く、母親の年収が低ければ養育費が高くなり、その逆であれば養育費は低くなります。

先ほど婚外子だからという理由によって養育費が低くなることはないと申し上げましたが、婚外子がいる男性には、結婚している女性との間にも子供がいる場合もあるでしょう。その場合、上の例にある父と母の収入があったとしても、婚外子だからという理由ではなく、婚外子とは別に扶養しなければならない子(及び妻)がいることを理由として、上記金額よりも受け取れる養育費の額が少なくなる可能性はあります。

ベリーベスト法律事務所のサイトには簡易的な養育費計算ツールを用意しています。ぜひ活用してみてください。
養育費計算ツール

7、まとめ

婚外子が養育費を確実に受け取るためには「認知」の手続が必要不可欠です。また、認知をしてもらっただけでは、養育費を支払うという確約は取れません。そのため、生まれてくる子どものための権利を確保したいのであれば、認知とともに養育費の取り決めを行う必要もあります。

多くのケースで、産後は最低でも1ヶ月は事務手続や話し合いなどの時間が取れず、その分養育費の受け取りも遅れてしまいます。出産も育児も非常に大変で、出産後しばらくは食事もままならない状態が続くこともあるでしょう。

ひとりでの対応が難しいときは、養育費問題に対応した経験が豊富な弁護士に相談して、請求の手続についてのアドバイスを受けることをおすすめします。ベリーベスト法律事務所・静岡オフィスの弁護士も、あなたの子どもの将来のために力を尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています