就業規則を変更するときの手続きの流れと注意ポイントを弁護士が解説
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静岡県内では、薬局や介護サービス業界で週休3日制を取り入れる企業が増えています。静岡市駿河区にある介護関連サービスの会社でも、平成29年11月、希望すれば週休3日制を選べるように就業規則を変更したそうです。週休3日制にすると、給料が多少減ってしまうデメリットはあるものの、休日が増える分体力に余裕をもって働けるメリットもあります。
では、就業規則を変更するときはどのような流れになるのでしょうか。また、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。
1、就業規則の重要性を知っていますか?
まず、就業規則の役割やその重要性について知っておきましょう。就業規則は常時10人以上の従業員を雇用する事業所で作成しなければなりませんが、なぜ企業には就業規則が必要なのでしょうか。また、就業規則がなければどうなるのでしょうか。
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(1)就業規則の役割とは
就業規則とは、会社のルールを明確にする役割を持っています。従業員一人ひとりの賃金を決めるときにも、異動を命じるときにも、また解雇するときにも、就業規則に基づかなければなりません。
また、営業秘密の漏洩や未払い残業代請求など、会社にとって不利益になりうる事案から会社を守る役割も就業規則が担っています。就業規則で退職者に対し勤務中に得た情報を口外しないようにすることで会社の営業秘密の漏洩を防いだり、就業時間や時間外手当に関して規定することで、未払い賃金で争いになったときに証拠資料になるのです。 -
(2)就業規則には必ず定めなければならない事項がある
就業規則には、必ず定めなければならない事項の「絶対的明示事項」と、会社に制度があれば必ず定めなければならない事項の「相対的明示事項」があります。この2つの明示事項に関する例をあげてみましょう。
絶対的明示事項 相対的明示事項 - 労働時間に関する事項(始業時刻と終業時刻、休憩時間、休日、休暇など)
- 賃金に関する事項(賃金の決定方法・計算方法、賃金体系、締め日・支払日、昇給など)
- 退職に関する事項(解雇事由、退職手続き、定年など)
- 退職手当に関する事項(適用される労働者、計算方法など)
- 臨時の手当や退職金を除く一時金に関する事項
- 安全・衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 表彰や制裁に関する事項
- 災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
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(3)就業規則がないとどうなる?
「就業規則を作るのがめんどう」だからと、就業規則を作っていない会社もあるでしょう。しかし、会社のルールである就業規則がなければ、管理職の者が部下に対してサービス残業や退職強要することが横行するかもしれません。その結果、従業員とトラブルが発生したときに会社を守れなくなる可能性もあります。問題社員がいても、退職に関する規定がなければ退職させることもできません。このように、就業規則がなければ適切な労務管理ができない上に、会社がさまざまなリスクにさらされることになるのです。
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(4)就業規則を変更しなければならないケース
就業規則があっても、ずっとそのままでよいわけではありません。会社経営を続けている中で、内容の見直しや変更をしなければならなくなることもあります。
就業規則の変更が発生する要因としては、以下のようなことがあげられます。- 創業以来、就業規則の見直しを全くしていないとき
- 労働にまつわる法令の改正や最低賃金の改定があったとき
- 労働時間や休日、賃金体系を変更するとき
- 手当を新設・廃止するとき
- 在宅勤務(テレワーク)制度や変形労働時間制を導入するとき
- 今ある就業規則が会社の実態に合っていないとき
- 経営状況が悪化したとき
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(5)従業員の反対があっても変更できる?
就業時間を延長する、給与を減らすなど、従業員に不利になるように就業規則を変更する場合は、社内から反対の声が上がることも予想されます。
会社側からの一方的な不利益変更は労働契約法で禁止されていますが、従業員の過半数を代表する者の意見を聴取して書面で提出すれば、変更の届出そのものは行うことができます。ただし、変更理由に合理性があることを説明できなければなりません。
2、就業規則を変更するときの手順
就業規則の変更をするには、次の5つのステップを踏む必要があります。どのようなことをすればよいのか、ひとつずつ順番に見ていきましょう。
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(1)変更箇所を決めて新しい条文を考案する
まず、就業規則のどこを変更するかを検討します。変更箇所を決めたら、変更案をとりまとめます。パート・アルバイトなどを雇用している場合は、パート・アルバイトも適用されるのかなど変更の適用範囲も定めます。その後、各種労働法規の違反がないかをチェックして、取締役会等で承認を受けましょう。
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(2)就業規則変更届の作成
次に、労働基準監督署に提出する就業規則変更届を作成します。どこをどのように変更したのかがはっきりわかるよう、新旧対照表を載せるとわかりやすいでしょう。特にフォーマットの指定はありませんが、厚生労働省のウェブサイトに就業規則変更届の様式が掲載されていますので、そちらを利用するのも良いでしょう。
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(3)変更届に添付する意見書の作成
就業規則を変更する際には、労働者の過半数を代表する者の意見書も作成しなければなりません。代表者は、管理監督者でない者の中から、挙手や投票などの民主的な方法で選出されることが条件です。
従業員代表者の意見を聞いて内容を書面にまとめ、日付と代表者の署名捺印を入れます。このとき、全従業員の同意を得る必要はありませんが、不利益変更を行う場合はこの段階で従業員に説明しておくとよいでしょう。 -
(4)労働基準監督署へ届出
変更届・意見書・新しい就業規則が用意できれば、労働基準監督署へ提出します。それぞれ2部ずつ用意して、1部に受領印を押してもらい、社内の控えとするとよいでしょう。基本的にきちんと形式に沿ったものであれば問題なく受理されますが、変更内容が労働基準法に違反しているものであれば受理されないこともあります。
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(5)社内へ周知する
変更した就業規則は社内に周知します。周知は、労働基準監督署への届出前に行ってもかまいません。その際は、どこをどのように変更したのかがひと目でわかるように、新旧を比較できる表を添付すると親切です。新しい就業規則は、社内イントラネットの共有ファイルや、オフィス内のだれもが立ち入れる場所にあるキャビネットの中など、従業員全員がいつでも閲覧できる場所に置いておきましょう。さらに、その就業規則がどこに置かれているのかは必ず従業員に知らせましょう。
3、就業規則を不利益変更するときの注意点
就業規則の変更は、給与アップなど従業員に有利になるようなものばかりではありません。就業時間の延長や固定残業制の導入のように、やむを得ず従業員にとって不利益な変更をしなければならないこともあります。その際、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
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(1)労使の合意なく変更できない
労働契約法上、就業規則の内容は会社側が一方的に変更することはできないのが原則です(労働契約法9条本文)。したがって、労使の合意がないまま勝手に就業規則を変更することは許されていないので注意が必要です。仮に合意がなされていたとしても、会社側が従業員に強制した合意であれば、その合意は無効となりかねません。
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(2)就業規則の不利益変更が有効になる要件
労働契約法9条ただし書きと同法10条では、労働者との合意がなくても就業規則の不利益変更が有効になるための要件を定めています。それは、変更後の労働条件が①「周知」され、かつ、様々な事情を考慮して②「合理的な」ものであることを必要とします。
ここでいう「周知」は、必ずしも現実に労働者がその労働条件を知っていることまでは必要とされていないですが、2(5)にあるような措置は取っておく必要があります。また、現実的に知っている必要まではないとはいえ、次の(3)のように変更後の労働条件を知らせて説明したほうがよいでしょう。 -
(3)なぜ不利益変更が必要なのか説明する
就業規則を不利益変更する場合は、会社側から従業員に納得のいくような説明をすることが求められます。働き方や賃金等がどのように変わるのか、不利益変更をすることで生活にどのような影響があるのかについて、会社側から十分な説明をしましょう。説明をする場合は、変更前の労働条件、変更後の労働条件、そして変更が必要となった理由を文書で説明した方がよいでしょう。同時に、従業員からの意見があればしっかり耳を傾けることが必要です。
もし、この労働条件変更について後で紛争になりそうであれば、その説明の際の議事録をとる(参加者名・参加人数、会社からの説明内容、従業員の意見などを記載)、労働者の同意を得て録音をする、書面を交付して説明したのであれば交付と同時に受取りを示す書類への署名を求めるなどの措置をとっておいた方がよいでしょう。 -
(4)不利益変更の合理性が必要
(2)②にあるように、就業規則の不利益変更は、様々な事情を考慮して合理的なものになっている必要があります。「様々な事情」というのは、労働契約法10条の条文によればその内容「労働者の受ける不利益の程度、労働条件変更の必要性、変更後の就業規則の相当性、労働組合等との交渉の状況その他就業規則の変更にかかる事情」です。条文上はとても抽象的にかかれており、具体的に何をすればよいのかというのはわかりにくいです。とはいえ、「したほうがいいこと」というのはありますので、それは次の「4、就業規則の変更を受け入れてもらいやすい3つのポイント」で説明します。
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(5)変更の手続きは事業所ごとに必要
就業規則を変更するときは、事業所ごとに変更の手続きが必要です。たとえば静岡市に本社を、静岡市外の県内各地に支社(支店)を構えている場合は、本社でも各支社(支店)でも変更手続きが必要になります。ただし、変更内容が同じであれば、一括届出も可能です。
4、就業規則の変更を受け入れてもらいやすい3つのポイント
特に就業規則の不利益変更を行う場合は、社内で反発が起きることも考えられるでしょう。反発されるリスクをある程度おさえ、できる限り受け入れてもらいやすくするには、ポイントが3つあります。
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(1)同意書をできるだけ多くの社員に書いてもらう
就業規則変更を届け出るときは、原則として従業員の過半数を代表する者の意見を聞くだけでよいとされています。しかし、代表者だけでなく従業員一人ひとりと面談して変更内容について説明し、できる限り多くの社員の同意を得ることがポイントです。客観的に多くの従業員の同意を得たことを示すために、口頭で同意を得るだけでなく、きちんと同意書を用意して従業員に記入してもらいましょう。
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(2)代償措置や経過措置を設ける
就業規則の不利益変更をしたからといって、いきなり新しい就業規則を適用すると、働き方や生活そのものに急激に影響を与えることが懸念されます。その場合は、少しでも不利益を受ける度合いが少なくなるような代償措置や、一定期間を設けてゆっくりと新しいルールに移行していくような経過措置を設けることが必要です。そうすれば、生活の急激な変化が避けられるので、心理的抵抗もいくらか減らせるでしょう。
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(3)従業員の過半数代表者と十分に話し合う
また、就業規則を変更しようとしたときに、労使間でどれだけ話し合いの場を持ったかも重要なポイントです。先述のとおり、使用者側が一方的に変更を決めたり、従業員の同意を強制したりした場合は、変更が無効となります。そうならないために、従業員の過半数を代表する者と会社側とで複数回協議の場を設け、十分に議論を尽くして双方が納得した上で合意を得ることが必要です。
5、まとめ
就業規則の不利益変更をすると、従業員からの反発を招くことは想像に難くありません。そのため、従業員に丁寧に説明を行い、話し合いを続けることが非常に重要になります。
しかし、従業員の同意書の取得の仕方や説明の仕方によっては不利益変更が認められず、訴訟を起こされるリスクもあります。就業規則の不利益変更を行う際は、ベリーベスト法律事務所 静岡オフィスの弁護士に相談されることをおすすめします。労働問題豊富な弁護士が、できる限りリスクを回避しながら不利益変更を行う方法を提案しますので、お気軽に当事務所までご相談ください。
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