経費の不正請求が会社にバレた! 横領などで逮捕される可能性は?
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磐田市の社会福祉協議会の職員が、担当していた団体の口座などから2555万円もの現金を引き出して、着服していたことがわかりました。この職員は、領収書を偽造し、架空の出金伝票をつくって引き出した現金を、自分個人の滞納家賃の支払いや歯の治療費にあてていたとみられています。
このように、経費の不正請求が勤務先に発覚した場合、どのような罪にあたるのでしょうか。また、逮捕されたり、会社を解雇されたりすることはあるのでしょうか。
1、経費の不正請求にあたるケースとは?
会社員として働いていると、さまざまな経費がかかります。特に営業部員は社外に出ることが多く、その分交通費や接待費といった経費がたびたび発生します。そのときに、経費の一部または全部をごまかして請求すると不正請求になります。では、経費の不正請求にはどのようなパターンがあるのでしょうか。
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(1)出張費の水増し
出張するときに、旅費交通費や宿泊費の金額を上乗せして請求書を作成させるケースがあげられます。たとえば、1泊しかしていないところを2泊したことにしてその分のホテル代を会社に請求する、新幹線のチケットを予約して領収書を提出し、その後予約をキャンセルして高速バスなどを利用するなどがこれにあたります。
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(2)私的流用
仕事で使ったように見せかけて、私的な用途に使うのも経費の不正請求にあたります。たとえば、プライベートで使うものを買ったときに営業の経費として申請したり、友人と食事に行ったときに、その飲食費を接待費として申請することがこれにあたります。
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(3)領収書の改ざん
領収書に書いてある内容を改ざんした上で経費申請するのも、不正請求になります。お店から白紙の領収書をもらって適当な金額を書いて会社に提出したり、領収書の日付や宛名をごまかしたりすると領収書の改ざんになります。
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(4)架空請求
経費を使っていないのに、使ったかのようにみせかけて請求する架空請求も、もちろん不正請求になります。たとえば、友人と私的な飲食をしただけで取引先の接待をしていないのに、接待をしたように見せかけて接待費を申請したり、出張していないのに出張費を申請したりすることが架空請求にあたります。
2、経費の不正請求で問われる罪
経費の不正請求は犯罪行為になります。したがって、事案によっては逮捕・起訴されることもあり得ますし、起訴されれば処罰を受ける可能性もあります。ここでは、経費の不正請求がどのような罪にあたるかについて解説します。
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(1)詐欺罪
特急を使ったように見せかけて実は在来線を使ったなど、実際にかかった金額よりも多い金額を請求書に記載して経理担当者を欺いた場合、詐欺罪にあたります。詐欺とは、他人をだまして他人の財産を自分に交付させたり、違法な手段でお金を手に入れたりすることを指します。詐欺罪が成立すると、10年以下の懲役に処せられます。
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(2)業務上横領罪
自分が管理を任されている会社のお金をプライベートの用途に使用すると、業務上横領が成立します。業務上横領とは、業務として自分が占有している他人の財物を不法に自分のものにしてしまうことです。経費の不正請求をして、自分が管理している会社のお金を着服していることが発覚して告訴された場合は、業務上横領罪となり10年以下の懲役に処せられます。
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(3)経費で購入したときのポイントを自分のものにすると業務上横領になる?
経費で会社の備品を購入するときに自分のポイントカードを使用したり、出張時に自分のクレジットカードでマイルをためたりする方は多いかもしれません。これが不正にあたるかどうかは、カードが個人名義か法人名義かで変わってきます。個人名義のカードで、単に会社のために一時立替払いをしただけということであれば、ほぼ問題はありません。一方、法人名義のカードで経費を支払って得たポイントでプライベートの買い物をすると、業務上横領にあたる可能性があります。
ただし、個人名義のカードであっても、就業規則に「経費立替時に獲得したポイントは会社に帰属する」などと定められていたり、通常の業務に伴う出費とは言えない高額な商品やサービスを経費で購入したりしたときは、獲得したポイントは会社のものになると考えられるので、注意しましょう。 -
(4)私文書偽造罪
領収書の金額を改ざんすることは当然ですが、日付や宛名などを改ざんする行為も、私文書偽造罪にあたります。特に、他人が押印・署名した領収書に変更を加えた場合は、有印私文書変造罪となり、3か月以上5年以下の懲役に処せられる可能性があります。また、改ざんした領収書を会社に出した場合は、偽変造私文書行使罪が成立します。この偽変造私文書行使罪も、量刑は3か月以上5年以下の懲役となります。ただし、私文書の変造と変造文書の行使は目的・手段の関係になるので、全体でひとつの罪とみなされ、法定刑が単純に合算されるということはありません。
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(5)民事上の賠償責任が問われることも
不正請求は、横領等の罪で刑罰を受ける可能性があるだけでなく、民事上の責任が問われることになります。横領行為は、会社に対する職務上の義務の違反ですし、単純に違法な行為でもありますから、損害賠償責任が発生します。なお、自分が知らないところで同僚に名前を利用され央料金が自分の口座に振込まれたようなときも、不当利得として返還義務が生じることになります。
また、会社の中で経費の不正請求事件が発生したことが世間に知られれば、企業のブランドイメージや信用の低下にもつながり、経営にも悪い影響を及ぼすでしょう。そうして、顧客離れが生じるなどして具体的に実害が生じれば、単に横領した金額の賠償にとどまらず、拡大させた会社の損害について、民法上の不法行為責任にもとづく損害賠償請求をされることもありえます。
3、経費の不正請求で逮捕の決め手になるのは?
経費を不正請求し、それが発覚したからと言って、必ず刑事事件として立件されるとは限りませんし、警察が事件として認知して捜査を開始する場合も、必ずしも逮捕されるとは限りません。逮捕の必要の有無はケースバイケースで考える必要がありますが、逮捕される可能性が高くなるのはどのような場合なのでしょうか。
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(1)不正請求した経費の金額が高額
まず、不正請求した金額が高額になるほど、立件は免れませんし、事案によっては逮捕される可能性は高くなります。過去の事例を見ると、一般的に、不正請求で着服した金額が数千万円~1億円以上になると、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれも大きくなりますから、ほとんどの場合逮捕されると言ってもよいでしょう。逆に、横領した金額がおよそ100~200万円以下で、会社側との間で民事的な解決が図られる可能性が大きいと判断されるような場合は、仮に立件されても、在宅事件として扱われる傾向があります。
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(2)会社との間で示談が成立していない
経費の不正請求が会社側に発覚したら、すぐに会社との間で示談交渉を始めるべきです。しかし、金額が大きく一括返済が難しい場合や被害額の認識が会社側と自分で食い違っている場合などは、示談交渉が難航することもありえます。また、とくに公務員の場合に多いのですが、そもそも被害者側が、賠償は受けるが示談はしないという対応をしてきて、示談交渉に応じてもらえないこともあります。会社側との示談が成立していなければ、逮捕される可能性が相対的に高くなることは避けられないと言えるでしょう。
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(3)刑事告訴されている
すでに会社側が被害届を警察に提出している場合や刑事告訴している場合も、他の事情との兼ね合いではありますが、逮捕される可能性が高くなります。すでに被害届や告訴状が提出されている場合は、一刻も早く示談交渉を始め、会社側から「被害届(告訴)を取り下げる」との回答を得て示談を成立させることが重要です。そういう回答が得られれば、逮捕される可能性はかなり低くなくなるでしょう。
4、刑事告訴を回避するためにできること
業務上横領罪や詐欺罪には罰金刑がないため、起訴されて有罪判決を受ける場合は懲役刑の宣告を受けることになりますし、執行猶予を受けられず実刑判決になれば必ず服役することになります。また、在宅捜査にとどまらずこれらの罪で逮捕・勾留されることになると、保釈されない限り裁判が終わるまで身柄を長期間拘束されるため、仕事が続けられないというレベルではなく、家族も多大な苦痛を味わうことになり、住居地で生活を続けることも困難になったり、社会生活にダイレクトに影響しますし、将来更生しようとしても様々な障害が生じかねません。このような事態を防ぐためには、まずは立件されないよう刑事告訴を回避する努力をしなければなりませんが、回避するためにできることはあるのでしょうか。
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(1)謝罪する
経費を不正請求してしまったら、発覚する前に一刻も早く事実を認めて謝罪しましょう。不正請求は、請求書等の証拠は残りますし、相手方に反面調査をされれば相手にも記録が残っているので、社内調査をされればほぼ確実にわかってしまうことなので、バレるまで隠し通そうとすると、「自分の罪を隠蔽した、反省していない」と解釈され、さらには「多にも調査から漏れている不正行為があるのではないか」と疑われて、示談交渉などの場面で立場が不利になったり、起訴された場合には実刑判決を受ける可能性が高くなったりという不利益が生じます。会社にどのタイミングでどのように告白すればよいかわからない場合は、弁護士に相談して指示を仰いだほうがよいでしょう。
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(2)不正請求した金額を明らかにする
次に、不正請求した金額をすべて隠さず明らかにしましょう。何月何日にいくら経費申請していくら着服したのか、領収書を改ざんした場合は、もとの宛名・金額はどうだったのかを正直に申告するようにします。ここで会社が認識している金額とくい違いが生じた場合、正直に申告していれば調査してもらうことで疑いが晴れますが、嘘を言ったり隠し事をしていたりしてそれが後で明らかになると心証がますます悪くなり、正当な弁解も信じてもらえなくなるので、正確な金額を出しましょう。
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(3)示談交渉をする
先述のとおり、被害届や子告訴状が提出されていても、示談が成立すれば、とくに初犯の場合なら、起訴されず起訴侑諸処分ですませてもらえる可能性が高くなります。このとき、本人が自力で会社側と交渉しようとしても、そもそも信用を失っていますから、示談交渉自体に応じてもらえなかったり、不利な条件を飲み込まされることもあるかもしれません。そのため、早めに弁護士に相談し、弁護士を介して示談交渉を行うのが望ましいでしょう。示談が成立すれば、告訴を避けられるだけでなく、懲戒解雇処分のリスクも避けられるが可能性があります。
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(4)被害弁償する
経費を不正請求すると、金額にもよりますが、少なからず会社の資金繰りにも影響を及ぼす可能性があります。そのため、会社側と示談交渉をする際には、とにかく事実を明らかにし、誠心誠意謝罪をして、不正請求した金額分をきちんと被害弁償する旨を申し出ましょう。被害額が大きい場合は、弁護士から長期間かけて分割払いにできるよう交渉してもらうことをおすすめします。
5、会社を解雇される可能性はある?
経費を不正請求すると、一般には、会社を解雇される可能性は相当程度覚悟する必要があります。ただ、状況によっては、懲戒処分は避けられないとしても解雇までは不当と認められるケースがありえますし、会社との交渉により、懲戒解雇ではなく自主退職の形を取ることで解決に至ることは珍しくありません。さらに、弁護士が交渉に当たる場合は、示談書の中に守秘条項を設けることで、会社側にも退社に至った事由を他言しないよう約束してもらい、再就職に支障が生じないようにする解決もよく行われます。
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(1)懲戒解雇処分になる可能性はある
経費の不正請求をして会社のお金を着服することは、会社と社員が築き上げてきた信頼関係を大きく損なうことになります。また、通常の就労規則では、犯罪行為や会社に対する背信行為は必ず懲戒事由として明記されています。そのため、不正請求した額が少額であっても、何らかの懲戒処分を受けることは避けられないのが一般です。例外として、仮に就労規則には懲戒事由として明記されていないとした場合、解雇を争う余地はないとは言いませんが、一方、雇用関係は継続的な信頼関係を基礎とする契約関係ですから、民事法上の一般的な原則に基づき契約関係の解消を主張されることになるでしょう。明示的な規定がないから処分を免れるというような単純な問題ではないのです。
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(2)給料や退職金は支払われる
解雇されることになっても、処分を受けるまでの間に働いた分の給料はきちんともらえます。会社は従業員が働いた分の給料を支払う義務があるからです。また、退職金制度がある場合は、退職金も就業規則に則って支給されるのが原則ですが、しかし、懲戒解雇の場合は、ほぼ確実に、就労規則において、減額または不支給とすることができる旨が明記されていると思われます。
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(3)裁判で解雇無効になるケースも
個別事案ですが、会社を懲戒解雇になっても、不正請求によって得たお金を何に使ったかによって、裁判で解雇無効と判断されるケースもあります。社員の出張費の水増し請求やカラ出張が問題になったJTB事件では、札幌地裁が「その着服した金銭の使途等を含めた具体的事情いかんによっては、懲戒解雇の相当性を欠き、解雇権の濫用に当たる場合があり得る」と判決文の中で述べています。つまり、この札幌地裁の判断は、不正請求で着服したお金を、他の営業上必要な経費に回していることが立証できれば、解雇が無効となる可能性があることを示していると言えるでしょう(札幌地裁2005年2月9日判決)。
6、まとめ
経費の立て替えがたびたび発生する部署では、「ちょっとくらい大丈夫だろう」と小さな経費をごまかしていても、何度もくり返しているうちに不正請求の金額が大きくなってしまうことも珍しくありません。
ベリーベスト法律事務所 静岡オフィスでは、会社の経費を不正請求してしまった方のご相談を受け付けております。不正請求をしてしまったら、できる限り早く自分から打ち明けて謝罪し、被害弁償をすることが逮捕を免れる重要なポイントになります。その際は、当事務所の弁護士が全面的にバックアップいたしますので、お困りの方はお気軽にご相談ください。
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