交通事故で脳挫傷を負ったケースの典型症状と慰謝料の相場
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静岡中央警察署 交通安全協会静岡中央地区支部が公表している資料によると、令和5年に静岡市内で発生した交通事故件数は、3470件あり、内負傷者は4201名もおられました。
交通事故により頭部に衝撃が加わると、脳挫傷を負う可能性があることは知られている通りです。脳挫傷は、激しい頭痛や嘔吐、意識障害などの症状があらわれ、高次脳機能障害といった後遺症が生じてしまうおそれがあります。
交通事故で脳挫傷と診断された方およびそのご家族の方は、適正な賠償を受けるためにも、後遺障害の典型症状や慰謝料相場などをきちんと知っておくことが大切です。ベリーベスト法律事務所 静岡オフィスの弁護士が解説します。
1、交通事故で負った脳挫傷は治るのか
交通事故で負った脳挫傷は、完治するのでしょうか。以下では、脳挫傷の典型的症状と予後について説明します。
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(1)脳挫傷の典型的症状
脳挫傷とは、頭部に直接的な衝撃が加わることで、脳が損傷した状態をいいます。脳挫傷が起きる原因にはさまざまなものがありますが、交通事故により頭を強く打ち付けることで脳挫傷が生じるケースは多いです。
このような脳挫傷の典型的な症状としては、以下のものが挙げられます。
- 頭痛
- 嘔吐
- 運動麻痺
- 感覚障害
- 言語障害
脳挫傷による症状は、事故後すぐにあらわれることもあれば、事故から一定時間経過後にあらわれることもあります。そのため、少しでも異常を感じた場合には、すぐに病院を受診することが大切です。
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(2)脳挫傷の一般的な見通し(予後)
交通事故により、脳挫傷と診断された場合には、手術などによる対症療法を経て、リハビリを開始するのが一般的です。
リハビリにより、脳の機能は一定程度回復することが見込めますが、完治するのは難しいといわれています。それは、打撲や骨折であれば、細胞分裂により組織が再生されますが、脳内の神経細胞が損傷してしまった場合には、再生することがないからです。リハビリにより、脳の機能が回復するのは、脳内の神経細胞が再生したのではなく、損傷を免れた脳機能が強化される結果として、症状が軽くなることがその理由です。
そのため、交通事故により脳挫傷と診断された場合には、何らかの後遺障害が生じる可能性がありますので、適正な後遺障害等級認定を受けることが重要となります。
2、想定できる後遺障害等級と認定方法
交通事故で脳挫傷と診断された場合には、何らかの後遺症が生じてしまう可能性が高いです。このような場合には、後遺障害等級認定の申請をすることで、症状に応じた後遺障害等級認定を受けることができます。
以下では、脳挫傷により想定される後遺障害等級とその認定方法について説明します。
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(1)脳挫傷により想定される後遺障害等級
脳挫傷により生じることが予想される代表的な後遺症としは、下記の3つが考えられます。
以下では、これらの3つの後遺症について、認定され得る後遺障害等級とその症状を説明します。
① 高次脳機能障害
高次脳機能障害とは、交通事故により脳の一部を損傷したことにより、思考・記憶・行為・言語・注意などの脳機能の一部に障害が生じる状態をいいます。
高次脳機能障害は、外見からはわかりにくい障害ですので、身近な人や本人でも症状に気付かずに生活していることもあります。そのため、脳挫傷と診断された後、少しでも違和感があった場合には、すぐに専門の医療機関での診察を受けるようにしましょう。
高次脳機能障害になった場合、認定される可能性のある後遺障害等級は、以下の通りです。
後遺障害等級 認定基準 別表1 1級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 2級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 別表2 3級3号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 5級2号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 7級4号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 9級10号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
② 外傷性てんかん
外傷性てんかんとは、脳挫傷が起きた後に、てんかん発作が起こる状態をいいます。脳の損傷部位を焦点として異常放電が生じ、脳全体に広がることでけいれん発作を起こすことが多いとされています。
外傷性てんかんになった場合に、認定される可能性のある後遺障害等級は、以下のようになります。
後遺障害等級 認定基準 別表2 5級2号 1か月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が「意識障害の有無を問わず転倒する発作」または「意識障害を呈し状況にそぐわない行為を示す発作」であるもの 7級4号 転倒する発作等が数か月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1か月に1回以上あるもの 9級10号 数か月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの 12級13号 発作の発現はないが、脳波上に明らかなてんかん性棘波を認めるもの
③ 遷延性意識障害
遷延性(せんえんせい)意識障害とは、脳に損傷を受けたことでこん睡状態になってしまった状態をいいます。いわゆる「植物状態」と呼ばれるのが遷延性意識障害です。
遷延性意識障害になると、身体を動かすことができず、自分の意思で食事やコミュニケーションをとることもできませんので、交通事故の後遺障害のなかでも重篤なもののひとつといえます。
遷延性意識障害になった場合、認定される可能性のある後遺障害は、以下のようになります。
後遺障害等級 認定基準 別表1 1級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 2級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの -
(2)後遺障害等級の認定方法
交通事故の治療を続けても完治せずに、何らかの後遺症が生じてしまった場合には、後遺障害等級認定の手続きを行うことができます。後遺障害等級認定の手続きは、自賠責保険会社に対して、必要書類を提出して、申請することになります。
申請方法には、以下の2つの方法があります。
- ① 事前認定
事前認定とは、後遺障害認定の申請手続きを加害者が加入する任意保険会社に任せる方法です。
事前認定の方法であれば、基本的にはすべての手続きを加害者側の保険会社に任せることができますので、被害者にとって負担の小さい方法であるといえます。
しかし、加害者側の保険会社は、等級認定の結果に従って、慰謝料などの賠償金を支払う立場にあります。そのため、被害者の後遺障害認定に有利になる証拠や書類を積極的に収集してくれるわけではありません。その結果、事前認定では、適正な後遺障害認定とならず必要な賠償額を受け取れないおそれがあるといったデメリットもあります。 - ② 被害者請求
被害者請求とは、後遺障害認定の申請手続きを被害者自身で行う方法です。
被害者請求の方法だと、被害者自身で必要書類の収集や作成を行わなければなりませんので、被害者にとって負担の大きい手続きといえます。
しかし、自賠責保険会社に提出する書類を被害者自身で選別し、内容をチェックすることができますので、適正な後遺障害認定を受けられるメリットの高い手続きといえます。また、事前認定では、示談成立まで賠償金の支払いを受けられませんが、被害者請求であれば、示談成立前に自賠責保険会社から先払い金や仮渡金の支払いを受けることも可能です。
- ① 事前認定
3、相手方保険会社に請求できる慰謝料と相場
以下では、交通事故で脳挫傷と診断された場合に、相手方保険会社に請求できる慰謝料とその相場について説明します。
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(1)脳挫傷による慰謝料とその相場
脳挫傷により後遺障害等級認定を受けた場合には、一般的な傷害慰謝料(入通院慰謝料)に加えて、後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害慰謝料の金額は、認定された後遺障害等級に応じて、以下のように定められています。もっとも、下記の金額は訴訟提起した場合に認められる最大の金額とお考えください。
後遺障害等級 後遺障害慰謝料相場 自賠責保険基準 裁判所基準(弁護士基準) 別表1 1級 1650万円 2800万円 2級 1203万円 2370万円 別表2 1級 1150万円 2800万円 2級 998万円 2370万円 3級 861万円 1990万円 4級 737万円 1670万円 5級 618万円 1400万円 6級 512万円 1180万円 7級 419万円 1000万円 8級 331万円 830万円 9級 249万円 690万円 10級 190万円 550万円 11級 136万円 420万円 12級 94万円 290万円 13級 57万円 180万円 14級 32万円 110万円 -
(2)慰謝料以外に請求できる損害賠償
交通事故で脳挫傷になった場合には、上記の後遺障害慰謝料以外にも以下のような損害を請求することができます。
- ① 治療費
交通事故の治療に要した費用については、必要かつ相当な範囲で請求することができます。 ただし、加害者が任意保険に加入している場合には、加害者の保険会社から病院に直接支払いがなされるのが一般的です。 - ② 休業損害
交通事故により脳挫傷を負った場合には、入院やリハビリ通院のために仕事を休まなければならないことも多いと思います。このような仕事を休んだことにより生じた収入の減少分については、休業損害として請求することができます。
休業損害は、会社員だけでなく、アルバイト・パート、自営業者、主婦なども対象になります。ト - ③ 傷害慰謝料(入通院慰謝料)
傷害慰謝料とは、交通事故により怪我をしたことによる精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。傷害慰謝料の金額は、通院期間や通院日数に応じて計算するのが一般的です。 - ④ 逸失利益
逸失利益とは、交通事故により失われた将来得るはずだった収入をいいます。脳挫傷による後遺障害が生じた場合、労働能力が制約されることにより、以前と同様に働くことができず、収入の減少が生じてしまいます。そのような将来の収入減少分については、逸失利益として請求することができます。 - ⑤ 将来介護費用
脳挫傷により将来介護が必要になる後遺障害が生じてしまった場合には、平均余命までの期間の将来介護費を請求することも可能です。原則として別表1第1級1号または2級1号の後遺障害等級が認定された場合に請求可能ですが、別表2第3級以下の後遺障害でも認められるケースもあります。
- ① 治療費
4、交通事故被害者は弁護士に依頼すべき理由
交通事故により脳挫傷と診断された場合には、適正な賠償額の支払いを受けるためにも、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)保険会社との対応を弁護士に一任できる
交通事故により脳挫傷を負ってしまうと、怪我や後遺症の程度によっては、被害者本人が対応できず、被害者のご家族が保険会社とのやり取りを行っていかなければならないケースがあります。
ご家族が被害者の治療やリハビリ対応に加えて、保険会社との対応も行わなければならないのは、大きな負担となります。少しでも負担を軽減するためにも、まずは弁護士への依頼をご検討ください。
弁護士に依頼をすれば、保険会社とのやり取りを弁護士に一任することができますので、ご家族の負担は大幅に軽減することができます。また弁護士に示談交渉を一任することで、不利な条件で示談してしまうリスクも回避できる可能性が高まります。 -
(2)裁判所基準(弁護士基準)での慰謝料を請求することができる
交通事故の慰謝料の算定基準には、
- 自賠責保険基準
- 任意保険基準
- 裁判所基準(弁護士基準)
の3種類があります。
慰謝料の金額は「自賠責保険基準<任意保険基準<裁判所基準(弁護士基準)」の順で高くなります。
少しでも多くの慰謝料を請求するためには裁判所基準(弁護士基準)による算定が不可欠となります。裁判所基準(弁護士基準)により算定した慰謝料を請求することができるのは、弁護士に示談交渉を依頼した場合に限られます。 -
(3)適正な後遺障害認定を受けられる可能性が高くなる
適正な後遺障害認定を受けるためには、加害者側の保険会社に任せきりにする事前認定ではなく、被害者自身で手続きを行う被害者請求の方法で行う必要があります。
弁護士に依頼すれば、面倒な被害者請求の手続きを弁護士にすべて任せることができますので、負担なく後遺障害認定の手続きを進めることができます。
また、脳挫傷を負った場合には、事故直後から適切な検査を実施することが重要になります。早期に弁護士に依頼すれば、治療の進め方に関するアドバイスを受けることができますので、適正な後遺障害認定を受けられる可能性が高くなるでしょう。
5、まとめ
交通事故により脳挫傷を負ってしまった場合には、治療を続けても完治せずに、高次脳機能障害などの後遺障害が生じてしまう可能性があります。このような後遺障害が生じた場合には、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益などを請求することができることをまずは知っておきましょう。
弁護士に依頼することでこれらの賠償額を増額できる可能性がありますし、保険会社との煩わしいやり取りに悩まされることもありません。交通事故で脳挫傷を負ってしまった場合には、交通事故についての知見が豊富なベリーベスト法律事務所
静岡オフィスまでご相談ください。
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