後遺障害を申請しても認定されない!認定されやすくするポイントは?
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静岡県内の交通事故発生件数は、平成21年から30年までの10年間で平成23年の37,238件をピークに減少しており、平成30年には28,402件までに減っています。同データによれば死者・負傷者もここ数年は減少傾向にありますが、それでも年間数万人の方が交通事故によりケガを負い、そのなかには後遺障害が残ってしまった方もいらっしゃいます。
後遺障害が残れば、日常生活に多かれ少なかれ支障が出るものですが、症状によっては後遺障害が認定されないケースも少なくありません。今回は、後遺障害が認定されないときの対処法や認定されやすくなるポイントについて静岡オフィスの弁護士が解説します。
1、後遺障害等級認定とは
交通事故で神経障害や関節の曲がりの悪さ、傷痕などの後遺障害が残ったときは、後遺障害等級認定を申請することになります。ここでは、後遺障害等級とは何か、後遺障害等級が認定されたらどのようなメリットがあるのかについて解説します。
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(1)後遺障害等級とは
後遺障害とは、交通事故のケガがこれ以上治療を続けても良くならない状態になっても残存する、労働能力の低下ないし喪失を伴う障害のことです。後遺障害の症状の程度により分けられる等級のことを「後遺障害等級」といい、症状の重いものから順番に第1級から第14級まで14段階に分けられています。
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(2)後遺障害によって生じる2つの損害
後遺障害が残ると、後遺障害による精神的損害が生じ、一般的には労働能力の低下や喪失も生じます。そのため、後遺障害等級認定を受けると、これらに対する損害として「後遺障害慰謝料」と「後遺障害逸失利益」を請求することができるようになります。
後遺障害慰謝料とは、後遺障害を受けたときに受けた精神的苦痛に対して支払われるものです。その精神的苦痛は先述の14段階の等級に分けられており、一般的には等級が上がる(数字が小さくなる)ほど慰謝料も高額になります。等級が1つ異なるだけで受け取れる金額も数十万円~数百万円ちがってくるため、正しい等級の認定を受けることがとても大切です。
後遺障害逸失利益とは、後遺障害のために労働能力が低下もしくは喪失して収入を失ったことによる損害のことを指します。後遺障害が残ると、以前できていたことができなくなるので、仕事内容によっては勤務を続けられなくなり、辞めざるを得なかったり配置転換を強いられたりすることもあるでしょう。そのとき、将来得られたであろう収入を逸失利益として加害者側に請求することができるのです。 -
(3)後遺障害等級認定を申請するのは症状固定になってから
後遺障害等級認定の申請をするのは、治療を続けてもそれ以上良くならないと医師に判断されたときです。これを「症状固定」といいます。治療を始めて半年も経つと、加害者側の保険会社から「そろそろ症状固定にしてください」と言われることがあります。これは保険会社がこれ以上治療費を負担したくないがために言ってくることなので、すぐには応じないようにしましょう。症状固定は、あくまでも医師が判断するものだからです。
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(4)非該当になりやすい症状
ところが、後遺障害等級認定を申請しても認定されないことがあります。特に、むちうち症や高次脳機能障害などは所見が目に見えないため、医学的エビデンスが足りずに非該当になりやすいのです。運よく非該当は免れても、予想より低い等級にされてしまうこともあります。
2、後遺障害等級が認定されない理由
では、後遺障害等級が認定されないのはなぜなのでしょうか。後遺障害等級が認定されない理由としては、次のようなものが考えられます。
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(1)症状に他覚的所見がない
まず、症状に他覚的所見がないことがあげられます。「他覚的所見がない」とは、障害の存在を医学的に証明することができないことです。たとえば、むち打ち症による首の痛みは、本人に自覚症状があってもMRIやCT、レントゲンの画像に写るわけではありません。そのため、画像で何も異常が認められなければ、後遺障害等級が認定されない可能性があるのです。
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(2)通院回数が少ない
むち打ち症などでMRIなどの画像にも異常が認められず、それに加えて通院回数も少ないとなると、より後遺障害等級が認定されにくい傾向にあるといえます。たとえば、小さい子どものいる女性の中には、通院をしたくても子どもの預け先がなく、思うように通院ができない方も少なくありません。また、仕事が忙しく、診療時間内に病院に行くことができないなどの理由で病院から足が遠のいてしまう方もいらっしゃいます。そのような理由で通院回数が減ってしまっても、認定をする側からすれば「通院が必要な程の症状でもないから通院回数が少ない」ものと見分けがつかないため、後遺障害が認定されにくくなるのではないかと考えられます。
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(3)必要な検査をしていない
つらい自覚症状をいくら医師に訴えても、その自覚症状を具体的な数値等で示せるような検査を受けていなければ、医学的な裏付けができません。特にまひやしびれといった神経症状の原因となる所見(ヘルニア等)はレントゲンなどの画像にはあらわれないことも多いので、他の検査を受けることが必要になるのです。
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(4)症状の程度が軽い
また症状の程度が軽いことも認定されない理由のひとつです。レントゲンの画像所見などの他覚的所見がないときは、本人や家族から自覚症状をヒアリングしたうえで医師が判断することになります。症状が軽くても痛みやしびれなどがずっと続いていれば心理的な負担にもなるので、通院するごとに痛みやしびれが続いている旨を主治医にきちんと説明することが必要です。
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(5)事故との因果関係が不明
今残っている痛みやしびれなどの症状と事故との因果関係が不明なため後遺障害が認定されないこともあります。たとえば「事故当時は何ともなかったが、しばらくしてから痛みが出てきた」などの場合は、その痛みは事故以外の要因があるのではないかと疑われることがあります。
3、後遺障害等級が認定されやすくなる3つのポイント
痛みやしびれ、まひ、めまいなどの自覚症状があっても、その程度が軽ければ日常生活に影響がないとされて後遺障害等級が認定されないケースは少なくありません。後遺障害等級が認定されやすくなるには、3つのポイントがあります。
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(1)必要な検査を受ける
まず、医学的なエビデンスを得るために病院で必要な検査をしてもらいます。基本的な検査であるMRIやCT、レントゲンを受けていない場合は早急に医師に頼んで受けましょう。ただし、後遺障害等級認定を申請する段階になってこのような検査を受けて異常が認められても、時間の経過によってその異常が事故以外の理由により生じた可能性が高まってしまうため、可能な限り早いタイミングで検査を受けることも重要です。
神経学的検査をあわせて受けることも必要です。その際は、被験者の意志が入らないような検査も実施されることをおすすめします。たとえば、スパーリングテストやジャクソンテストといった検査は、頚椎を圧迫して痛みやしびれが出るかどうかを調べるものです。しかし、あくまでもその結果は被験者の自己申告に基づくものなので、他の検査(深部腱反射テスト等)も行うことがのぞましいとされています。 -
(2)事故との因果関係がわかるような後遺障害診断書を書いてもらう
後遺障害等級認定が受けられるかどうかは、医師に書いてもらう後遺障害診断書が重要なカギとなります。自賠責保険でも裁判でも、事故当時から症状固定に至るまでの自覚症状の流れが具体的かつ一貫性のあるものであることが求められます。症状のある部位や自覚症状や、神経学的検査などの結果(反射、可動域の制限や角度など)がもれなく記載されていることがポイントです。
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(3)弁護士に相談する
後遺障害診断書は、医師によっても書き方が変わります。交通事故のケガの治療を何度もしてきたようなベテランの医師であれば、ポイントをおさえた診断書を作ってくれるかもしれません。しかし、交通事故によるケガをあまり診たことがなく、自動車損害賠償責任保険用の後遺障害診断書の作成に慣れていない医師であれば、診断書の内容に抜けもれがあったりする可能性もあります。
そのため、診断書を書いてもらうときには弁護士に前もって相談されることをおすすめいたします。交通事故の経験豊富な弁護士であれば、診断書を書くときに認定を受けやすくなるポイントを踏まえ医師に書いてもらった診断書の内容を精査し、足りないところがあれば医師に伝えて補ってもらうこともできます。
4、認定されないことに納得できなければ異議申し立てをする
後遺障害等級の認定が受けられず「非該当」となれば、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益などを受け取ることができません。その後の生活にも大きくかかわるので、非該当の結果に納得できないときは、そのまま泣き寝入りせず異議申し立てを行うことが大切です。
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(1)保険会社へ異議申し立てをする
等級の認定に納得できない場合、加害者側の任意保険会社や自賠責保険会社へ異議申し立てをします。任意保険会社や自賠責保険会社への異議申し立ては何度でもできますが、単に不平不満を並べても意味がありません。審査結果をよく読んで、なぜ認定されなかったのか、何が足りなかったのかを精査し、審査基準を満たせるような検査結果や画像などの医学的エビデンスを提出することが必要です。
異議申立をすると、保険会社から自賠責損害調査事務所に審査が委託され、結果が出るまでに約2~3ヶ月ないしそれ以上の時間がかかることに留意しましょう。 -
(2)自賠責保険・共済紛争処理機構へ
保険会社に異議申し立てをしても納得いかないときは、自賠責保険・共済紛争処理機構に審査を申請する方法もあります。これは、第三者的な立場の弁護士や医師、学識経験者などからなる紛争処理委員会が、保険会社の支払いをめぐる被害者と保険会社の争いを解決するものです。
自賠責保険への異議申し立ては何度でもできますが、自賠責保険・共済紛争処理機構への異議申し立ては1回しかできない点に注意しましょう。 -
(3)訴訟を提起する
異議申し立ての結果にも満足できないときは、最終的に訴訟で争うことになります。このときも医師の診断書などの資料をもとにより上位の後遺障害等級が認められるべきであることを論理的に主張することになります。
5、まとめ
後遺障害が見た目や画像でわかるものであれば後遺障害等級の認定が受けられやすいのですが、見た目にも画像にも現れない症状で認定を受けることはとても難しいといえます。
認定を受けた後遺障害等級に納得がいかない場合、またそもそも認定されなかった場合は、ベリーベスト法律事務所 静岡オフィスでご相談を受け付けております。ご本人だけでなくご家族の方からのご相談でも構いません。どうぞお気軽にご来所ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています