交通事故に遭ったときの逸失利益が請求できる条件や計算方法とは

2020年05月18日
  • 慰謝料・損害賠償
  • 事故
  • 逸失利益
交通事故に遭ったときの逸失利益が請求できる条件や計算方法とは

交通事故に遭った被害者は、加害者に対して慰謝料や損害賠償を請求できますが、その中には逸失利益も含まれます。

逸失利益とはどのようなものなのでしょうか。また、請求できないケースもあるのでしょうか。適正な逸失利益を得るための方法とあわせて、ベリーベスト法律事務所 静岡オフィスの弁護士が解説します。

1、逸失利益の基礎知識

事故に遭ったあと、ケガで働けなくなったり、働き方を制限されて収入が減ることがありますが、その場合は加害者に対して逸失利益を請求することができます。では、逸失利益とはどのようなものなのでしょうか。

  1. (1)逸失利益とは

    逸失利益とは、簡単にいうと「交通事故にあわなければ得られたはずだった収入を失ったことについての損失」のことです。

    なお、交通事故でケガを負ったら、ケガの程度によっては入院が必要となり、しばらく仕事を休まなければならなくなることがあります。入院の必要がなくとも、以前できていた仕事ができなくなったことで収入が減ってしまうことも少なくありません。このような場合の損失については、「休業損害」といい、「交通事故にあわなければ得られたはずだった収入を失ったことについての損失」ではありますが、交通事故の損害項目としては、症状固定後のものだけを指して逸失利益と呼ぶのが通常です。今回は、症状固定後における逸失利益について解説します。
    逸失利益には、「後遺障害による逸失利益」と「死亡による逸失利益」の2種類があります。

  2. (2)後遺障害による逸失利益とは

    後遺障害による逸失利益とは、事故によるケガがもとで後遺障害が残り、以前と同じように働けなくなって収入が減った、もしくはゼロになったときに減少した利益です。たとえば、後遺障害が残ったことにより、デスクワークの方が腰に痛みが残って長時間座っていられなくなった、接客業の方が顔に大きな傷跡が残ったためにお客様の前に出られなくなった、といったときに発生します。

  3. (3)死亡による逸失利益とは

    死亡による逸失利益とは、事故で死亡してしまい収入が途絶えたときに発生するものです。事故当時に働いていた方は、もし天寿を全うできていたとすれば、勤め先の定年まで、もしくはそれより長い間働けていたかもしれません。その場合、得られるはずだった収入についても加害者側に請求ができるのです。

  4. (4)逸失利益が請求できないケースってあるの?

    逸失利益は、事故に遭ってケガによる後遺障害等級が認定されたり死亡したら必ず請求できるものではありません。逸失利益が請求できないケースもあります。それは、後遺症の程度が比較的軽微で、事故後も収入が減っておらず、将来にわたって減る可能性もないときです。

    過去の判例でも、以下のような判決が下されています。

    「後遺症の程度が比較的軽微であって、(中略)現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害は認められない」(最小判昭56.12.22 民集第35巻9号1350頁)

    ただし、この判例によれば「特段の事情」があれば、逸失利益が認められるとされています。その特段の事情として、以下の2つが例示されています。

    • ①本人が労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなどの要因がなければ収入が減少すると思われる場合
    • ②職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取り扱いを受けるおそれがある場合

2、逸失利益の計算方法

逸失利益は、後遺障害によるものか死亡によるものかによって計算方法が異なります。ここでは、計算方法や計算にあたり考えるべき項目についてみていきましょう。

  1. (1)逸失利益の計算式

    逸失利益の計算式は、以下のようになります。

    <後遺障害による逸失利益>
    (基礎収入)×(労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数)

    <死亡による逸失利益>
    (基礎収入)×(1-生活費控除率)×(就労可能年数に対応するライプニッツ係数)

  2. (2)労働能力喪失率とは

    労働能力喪失率とは、交通事故によって労働能力が失われた程度を示す割合のことです。この割合は、後遺障害等級と労働基準局長通牒(昭和32.7.2基発551号)別表労働能力喪失率表に基づいて決定されます。

    障害等級 労働能力喪失率 障害等級 労働能力喪失率
    第1級 100/100 第8級 45/100
    第2級 100/100 第9級 35/100
    第3級 100/100 第10級 27/100
    第4級 92/100 第11級 20/100
    第5級 79/100 第12級 14/100
    第6級 67/100 第13級 5/100
    第7級 56/100 第14級 5/100

    (参考:「別表1 労働能力喪失率表」)

  3. (3)労働能力喪失期間とは

    労働能力喪失期間とは、事故の後遺障害によって労働能力が失われた期間のことです。原則として、症状固定の日(一般的な治療方法によってはその効果が期待し得ない状態となり、これ以上改善が望めない状態となったとき)から67歳まで(一般的に就労可能と考えられている年齢まで)の間を労働能力喪失期間としています。

    被害者が67歳間近もしくは67歳を超える高齢者の場合は、「症状固定時から67歳までの年数」と「症状固定時における平均余命の2分の1にあたる年数」のうち、いずれか長いほうの年数で計算しますが、被害者の性別・年齢・職種・健康状態等によっても異なります。また、未就労者の場合は、労働能力喪失期間のはじまりが、症状固定時ではなく18歳または22歳となります。

    ただし、むち打ち症の場合は、障害の程度にもよりますが、労働能力喪失期間を5~10年程度に制限されることがあるので、詳しくは弁護士に相談されることをおすすめします。

  4. (4)ライプニッツ係数とは

    ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための係数のことです。逸失利益を受け取るときは、将来発生する利益を今の時点で一度に受け取ることになります。そのとき、本来受け取れる時期までに発生する利息を差し引くためにライプニッツ係数が使われます。

  5. (5)生活費控除率とは

    生活費控除率とは、就労期間中に得られたであろう収入から、かかったであろう生活費を差し引くための割合のことです。

    生活費控除率は、一般的に以下のように考えられていますが、あくまでも目安です。個別具体的なケースでは、これらと異なる割合になることもありえます。

    一家の支柱の場合かつ被扶養者一人の場合 40%
    一家の支柱の場合かつ被扶養者二人以上の場合 30%
    女性(主婦、独身、幼児等を含む)の場合 30%
    男性(独身、幼児等を含む)の場合 50%

3、職業別 基礎収入の計算方法

基礎収入とは、逸失利益を計算するときに基礎とする収入額のことで、原則として事故前に得ていた収入をもとに計算されます。しかし、その収入額のみで逸失利益を計算すると、将来的な昇給を考慮できないため、若年労働者の場合は不当に低くなる可能性もあります。そこで、職業や年齢ごとに調整が必要となるのです。

  1. (1)会社員の場合

    会社員など給与所得者の場合は、原則として事故の前年度の収入額(賞与含む)を基準にします。ただし、その収入額が全年齢平均賃金を下回っていて、事故当時おおむね30歳未満の場合は、将来的に全年齢平均賃金程度の収入を得られる可能性があると認められれば、全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金を基準に計算できます。

  2. (2)自営業の場合

    自営業者など事業所得者の場合、事故の前年度の確定申告で申告した所得を基準に計算します。経費等が実態と異なるなどの理由で実収入額が申告所得よりも高い場合は、それが証明できれば、実収入のほうを基礎収入とすることも可能ですが、その証明のハードルはかなり高いといえます。また、事故の前年度の所得以外に、被害者の年齢、健康状態、職業、営業規模や経営状態などを考慮して計算することもあります。

  3. (3)専業主婦(夫)の場合

    専業主婦(夫)など、家事従事者の場合には、普段行っている家事に金銭的な収入は発生しないものの、後遺障害によって家事の担い手がいなくなればそこに経済的な損害が発生すると考えることができるため、女性労働者の全年齢平均賃金を基礎収入として計算します。パートやアルバイトをしている場合(兼業主婦(夫))は、パート・アルバイトでの収入額と女性労働者の全年齢平均賃金のいずれか高いほうを基準にするのが一般的です。

  4. (4)乳幼児・学生の場合

    乳幼児や学生の場合は、男女別全年齢平均賃金の額を基礎収入とします。被害者が18歳未満の場合、さまざまな事情から将来的に大学に進学したであろうと認められる場合は、大卒者の全年齢平均賃金が適用されることがあります。なお、年少者の女の子については、女性労働者の平均賃金ではなく全労働者の全年齢平均賃金を基礎収入の基準とする傾向があります。

  5. (5)失業者の場合

    失業者の場合は、事故の時点で働いていないので収入はありません。したがって、原則として逸失利益もゼロになります。しかし、働く能力や意欲があり、将来的に就労する蓋然性が認められれば、失業する前の収入額を基準に計算します。失業前の収入額が賃金センサス上の平均賃金を下回っている場合、将来的に平均賃金と同程度の収入が得られる見込みがあれば、その平均賃金額を基礎収入とします。

  6. (6)高齢者の場合

    高齢者でも、事故に遭った時点で働いている、あるいは求職中でこれから就労する蓋然性がある場合は、事故前の収入や賃金センサスの年齢別平均賃金額を基礎収入とします。

4、正しく逸失利益を算定するための3つのポイント

事故に遭って収入を減らされたり、職を失ったりした場合、生活の基盤となるお金は少しでも多くもらいたいものです。そこで、逸失利益を正しく算定するためにはどのようなポイントに気をつければよいのでしょうか。

  1. (1)正当な後遺障害等級認定を受ける

    後遺障害による逸失利益を受け取る場合、逸失利益の計算に先立って後遺障害等級認定を受けなければなりません。しかし、認定された後遺障害等級が実態を適切に反映しない低いものだと、それに伴って労働能力喪失率や労働能力喪失期間も短くなり、逸失利益も少なくなってしまいます。後遺障害等級を不当に低く認定されないためにも、申請するときに医師によって作成された診断書に症状や検査結果がしっかりと書かれているかなどをチェックした上で提出することが必要です。なお、後遺障害等級は、後遺障害慰謝料の算出にも用いられますので、その意味でも重要です。

  2. (2)基礎収入の計算方法を確認する

    次に、基礎収入の計算方法を確認します。計算方法は職業・性別・年齢によって変わるので、それぞれの状況に応じて基礎収入を計算します。自営業者、公務員、会社経営者、専業主婦(夫)、給与所得者、それぞれに異なった考え方があり、事故に遭った方が正確に把握するのは難しいと思いますので、詳しくは弁護士に相談されることをおすすめします。

  3. (3)妥当な対象期間を設定する

    逸失利益を算出する際に、対象期間(収入が得られていたであろう期間)についても妥当とされる期間を設定することが必要です。先述のとおり、むち打ち症の場合は労働能力喪失期間に期限が設けられることがありますが、その他にも、たとえば定年退職制度の導入の有無などによっても期間は変わりえます。

5、逸失利益について弁護士に相談する3つのメリット

逸失利益を考えるにあたっては、さまざまな要素を加味して計算しなければなりません。その分、計算方法も複雑になります。下記の理由から、後遺障害等級が認定されていたり、死亡事故である場合には、弁護士を入れた方が適切な賠償額となる可能性が極めて高いといえるため、逸失利益を請求するときには、弁護士に相談されることをおすすめします。

  1. (1)弁護士に交渉を任せられる

    交通事故で後遺障害が残ると、多かれ少なかれ不便な生活を強いられることになります。そのような中で、加害者側の保険会社と慰謝料や損害賠償について交渉するのは大変なことです。弁護士に相談すれば、必要な手続きや交渉をすべて弁護士に任せて、ゆっくりと療養に専念することができます。

  2. (2)適正な後遺障害等級認定を受けられる

    適正な逸失利益を受け取るためには、適正な後遺障害等級認定を受けることが必要です。後遺障害認定の申請には、加害者側の保険会社に申請をまかせる事前認定と、被害者自身で申請を行う被害者請求の2つの方法があります。被害者請求であれば、被害者自身が必要と考える資料を全て提出して申請をすることができるので、適正な等級に認定される可能性が高まることが期待できます。しかし、自分自身で申請するとしても、そもそも何を提出すればいいのか分からないということもあります。そんなときには、交通事故の経験が豊富な弁護士に相談すれば、必要な書類を集めて内容を精査してもらうことができますし、被害者に代わって後遺障害認定の申請をしてくれるため、その場合は自分自身で申請する必要はなくなります。

  3. (3)逸失利益をはじめとする示談金が増額できる可能性がある

    交渉の経験が豊富な加害者側の保険会社と自力で交渉をしようとすると、保険会社も「持ち出し」を少なくするために慰謝料や損害賠償金のみならず、逸失利益を低く見積もろうとしてくることがあります。その点、弁護士に任せれば、適切な金額を計算して相手方の保険会社と交渉を進めることができ、結果として逸失利益をはじめとする示談金額の増額も期待できます。保険会社が提示してくる逸失利益と弁護士が算出する逸失利益とでは、ときに10倍以上の差が生じることもありますので、逸失利益が生じるような事故の場合、とにもかくにも弁護士にいちど相談してみるべきといえるでしょう。

6、まとめ

逸失利益は、職業や年齢、性別など個々のパーソナリティーに応じて考えるべき事項が異なります。また、医学的な知識も必要な上に、計算の仕方も複雑です。

交通事故のあと、加害者および加害者側の保険会社と逸失利益について話し合いをしなければならなくなった場合は、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所 静岡オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています